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清里に建てた自宅の前でインタビューに応じる西久保慎一

連載「上場、破綻、そして再起動」上

 航空大学校を出たての2人の若者が2021年10月、山梨県の清里駅に降り立った。高橋良(29)と鬼澤健斗(29)である。2人はパイロットを夢見たものの、コロナ禍の採用抑制が響き、大手航空会社に入れなかった。失意の2人が東京から2時間余もかけて清里に来たのはワケがある。

 ツイッター(現X)で見つけた「ニック・ブルー」という、高橋いわく「謎のおじさん」に会いに来たのだ。

 ニック・ブルーは「ヒコーキ野郎」らしく、自分が操縦する飛行機の写真を載せていた。プロフィル欄には「起業から上場、破綻(はたん)まで一通り経験しました。いまは畑を耕しています」とある。

 「魅力的なおじさんだな。ぜひこの人に会わなければならない」。高橋は強くそう思った。

 「お会いできませんか」とメッセージを送ると「どうぞ」と返ってきた。それなら「明日行ってもいいですか」と、早速やってきたのだった。

 2人は事業用操縦士などの資格を得たものの就職に失敗。ならば「小さくてもいいから航空会社を作れないか」と大胆にも起業を思い立った。

 高橋は、創業まもないベンチャー企業で働いた経験があり、ゼロから会社を立ち上げる魅力にとりつかれていた。起業経験のある飛行機乗りのおじさんは、ぜひとも話を聞いてみたい相手だった。

 清里の白樺(しらかば)の木…

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